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人口が減少し、建物が余り、地域の担い手が減っていく。
これまでの地域開発は、人口や経済が成長することを前提につくられてきた。
しかし、これからの社会では、すべてを新しくつくり直すことはできません。すでにある建物や土地、人のつながり、地域の歴史をどう活かし、限られた資源の中で、どうやって地域に新しい価値を生み出していくのか。
僕は、その問いに建築だけではなく、不動産、事業、運営という視点から向き合っています。
建築家として建物を設計するだけではなく、自ら不動産を取得し、事業をつくり、運営する。
一つの建物から始め、実践し、検証し、また次の建物へ進む。そうやって小さな変化を積み重ねながら、地域そのものを少しずつ変えていく。
このような実践を、「ひとり地域開発」と呼んでいます。

01|ひとり地域開発
ひとり地域開発とは、一人の個人もしくは責任の所在が明確な組織体が意思決定・リスク・実行を引き受けて、特定のエリアを継続的に開発していく方法です。
僕はこの方法を、次の4つの条件で定義しています。
① 意思決定が”ひとり”に集中していること
会議も合意形成も多数決も経ない。誰かの「やりたい」から始まり、その”ひとり”が決める。だから速く、大胆な決断ができます。
② ”ひとり”のリスク許容範囲内で、小さく進めること
自己資金と、自分が背負える範囲の借入。補助金への依存を前提にしない。無理のない規模だからこそ、判断を間違えても引き返せます。
③ 単体ではなく、エリア単位で継続すること
一軒を再生して終わりではありません。同じエリアの中で、次の物件、その次の物件と続けていく。点ではなく面として変えていきます。
④ 結果として、公共性が立ち上がること
最初から「公共のため」と掲げるのではありません。事業として成立させた結果、夜道が明るくなる、人が歩くようになる、真似をする人が出てくる。公共性は目的ではなく、成果です。
ひとり地域開発ではないもの
似て見えるけれど、この方法とは異なるものがあります。
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補助金の存在を前提として組み立てられた事業
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合議体・協議会が意思決定の主体になっている取り組み
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一軒だけを再生して完結する単発のリノベーション
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公共性を先に掲げ、事業性を後回しにする活動
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短期間で大きなインパクトを出すことを目標に置く開発
いずれも価値のある取り組みですが、ひとり地域開発が担っている役割とは別のものです。

02|縮退社会の地域開発
人口が増え続ける時代には、「何をつくるか」が地域開発の中心でした。
これからは、人口が減り、使われなくなる建物が増えていく。
だからこそ、
「何をつくらないか」 「何を残すか」 「何を使い直すか」
を考えることが重要になります。
すべてを維持するのではなく、地域の中で残すもの、変えるもの、手放すものを選びながら、無理なく続いていく地域の形をつくる。人口減少を前提にすることは、地域を諦めることではありません。今ある資源で、もう一度地域をつくり直すことです。
大きさではなく、方向性と持続性
人口が減っていく社会では、すべての地域を成長させることはできません。限られた人口、資本、担い手を、どこに使うのか。
つまりこれからの地域開発は、
「どう成長させるか」だけではなく、「どこに残すか」を選ぶ仕事になります。
だから、成果の大きさを競うことには、あまり意味がありません。より大きく、より強く、より個性的なものだけが評価される価値基準は、成長を前提とした社会のものです。
縮退する社会で重要なのは、どちらに進むのか。
そして、その方向に進み続けられるのか。
大きな成果を一度出すことより、正しい方向に小さな成果を積み重ねること。
だから、一人でも地域開発ができます。

03|どのエリアを選ぶか
ひとり地域開発でもっとも判断が問われるのは、改修の方法ではなく、どのエリアを選ぶかです。
人口が減っていく以上、すべての場所に同じように資源を投入することはできません。
どこに資源を集中させ、どこは今のまま見守るのか。
これからの地域開発には、その選択が必要になります。
しかし、行政がそれを明確に選択することは容易ではありません。
「この地域を残し、この地域からは撤退する」と公言することは、政治的にも社会的にも難しいからです。
だからこそ、民間の実践者が動く意味があります。
一人の人間が、自分の判断と自分のリスクで場所を選ぶ。
その場所で事業を始め、建物を一つ変え、人の流れを一つ変える。
行政が線を引かなくても、実際に人が動いた場所から、地域は変わり始めます。
エリアを選ぶという判断そのものが、ひとり地域開発の中核にあります。

04|建築家×不動産
建築家は、建物が完成するまでを考えることが多い。しかし、建物は完成してから使われ続ける時間の方が長い。その建物を誰が所有し、誰が使い、どんな事業を行い、どう運営していくのか。そこまで考えなければ、建築だけでは解決できない問題があります。
だから僕は、設計だけでなく、不動産取得や事業づくり、運営まで自分で経験することを大切にしています。建築をつくることから、建築を使って事業と地域をつくることへ。
既存ストックから考える
人口が減っている地域には、すでにたくさんの建物があります。
空き家、空き店舗、遊休地。
これらは問題として扱われがちですが、見方を変えれば、すでに存在している地域資源でもあります。新しい建物をつくる前に、今ある建物を使えないか。壊してしまう前に、別の使い方ができないか。
既存の建物には、その場所の歴史や周辺との関係も残っています。
ただし、既存ストックを活用すること自体が目的ではありません。それは、限られた資源で面としてエリアを変えていくための、もっとも現実的な手段です。

05|地図を描いてから、小さく進む
地域開発というと、大きな計画を描き、一度に街を変えることを想像しがちです。
人口減少社会では、一度に大きく動かすことがリスクになります。
しかし、だからといって計画がいらないわけではありません。むしろ逆です。
僕がまず最初にやるのは、そのエリアの理想の地図を描くことです。
10年後、このエリアがどうなっていてほしいのか。どこに人が歩き、どこに滞留し、何がどこに配置されているのか。曖昧なイメージではなく、具体的なゴールとして描く。
今のまちづくりに欠けているのは、この地図だと思っています。
地図がないまま個別の空き家に手を入れていくと、一軒ごとには成功しても、エリア全体としては何も変わりません。ゴールを具体的に描く。そして、そこへ向かって一つずつ進む。
大きく描いて、小さく実行する。
一つの物件から始め、実際に使ってみて、うまくいかなければ変える。可能性が見えたら次の場所へ広げる。
小さく始めることは、小さなことしかできないという意味ではありません。
描いた地図があるからこそ、一歩が小さくても、進んでいる方向がぶれません。

06|人が来ない前提で事業を考える
地域開発の事業計画は、たいてい集客の予測から始まります。年間何人来るか、稼働率は何%か。そこから収支を組み立てる。
僕は、この順番をとりません。
まず、人が来なくても赤字にならない事業構造を先につくります。固定費を低く抑え、身の丈に合った規模で始める。そうしておいてから、実際に人が来た分だけを上乗せの成果として考えます。
理由は単純です。集客の予測は、たいてい外れるからです。
観光や宿泊は、天候、時期、外部環境の変化に左右されます。予測に基づいて固定費の大きい事業を組むと、予測が外れた瞬間に事業そのものが立ち行かなくなります。人口減少社会では、この振れ幅はむしろ大きくなっていきます。
だから、集客できることを前提にしません。集客できなくても続く構造を先につくり、集客できたらそれは上振れとして受け止める。
これは消極的な考え方ではありません。「当たれば大きい」ではなく「外れても続く」ことを優先する。小さく始めて、実際に来た人の反応を見ながら、次の判断をしていく。ひとり地域開発が小さく始めることにこだわるのは、この前提と表裏一体です。

実践から考える
僕の考え方は、机上の理論から生まれたものではありません。
長崎坂宿をはじめ、自ら物件を取得し、改修し、事業をつくり、運営してきた中で、うまくいかなかったことも含めて積み重ねてきたものです。
だから、これらの考え方も完成した答えではありません。
実践して、失敗して、考え直して、また実践する。
その繰り返しの中から、人口減少時代の地域のつくり方を探しています。
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